サンシャイン・ステーブルス AFE取材記


 前回のウエスタン祭り、WILD HONKEY TONK取材の翌日、今度は同じ千葉県内の九十九里にある乗馬クラブ、サンシャイン・ステーブルスにお邪魔した。乗馬クラブは乗馬クラブでも、ウエスタン乗馬クラブである。

手前にレストランTHE MAVERICK、奥が乗馬クラブSUNSHINE STABLES。

 ウエスタン乗馬はオリンピックなどの馬術競技で見るブリティッシュ乗馬とは違い、アメリカ西部でカウボーイたちが馬に乗り、牛を追う動作を元にしているもので……というような基礎的なことも知らない私も取材に受け入れてくださったサンシャイン・ステーブルスの川島社長にまず謝意を述べたい。

川島社長近影

 日本では8~9割がイギリス由来のブリティッシュ乗馬だそうで、ウエスタン乗馬は1~2割ほどとのこと。たしかにただ乗馬と言われるとブリティッシュの方を想像しがちであるが、アメリカ由来のウエスタン乗馬も競技として存在しているのである。JQHAといってウエスタン乗馬に用いられるアメリカンクオーターホース協会の日本支部もある。

 レイニングという、ウエスタン馬術の種目に特化した協会もある。こちらも日本支部がある。競技の説明が動画と一緒にされており分かりやすい。

 今回のルポはアメリカ文化の影響を強く受けた日本人の姿を追う、が目的であるが、前日のWILD HONKEY TONKはサバゲーからウエスタンに興味を持った人が中心であった。

 お話を伺うと、川島社長はもともと幼いころから馬と関わっておられ、成長するうちに西部劇からカウボーイ文化に興味を持つようになった、馬ルートの人だった。なるほど馬に対する興味が最初にあり、そこからカウボーイ、ウエスタンに興味を持つ人も一定数いそうだし、ある意味では正規ルートのような気もする。

 考えてみればカウボーイルックが好きだが馬に乗らない人というのは、見ようによっては不思議な存在である。馬に乗って牛を追う仕事のためにカウボーイの服装は装備品も含め出来上がっていったのだろうし、そこにはファッション性よりも合理性の方が強く働いていた筈である。バイカールックだがバイクに乗らない人みたいなものだ。

 そういう意味ではファッションとしてカウボーイルックを扱っている時点で、日本のウエスタン趣味の大部分は空中に浮いているような存在なのだろう。ただ私個人としてはその不思議さがルポの対象として面白い。憧れ成分を抽出できるからだ。ウエスタンは見た目だけでも強烈に人を引き付ける力を持っている。

馬とビジネス

 川島社長は馬好きが嵩じて日本でウエスタン乗馬をやるためにアメリカから馬の輸入をゼロから始め、1991年には80頭ものアメリカンクオーターホースを日本に空輸するため、ジャンボジェットを借り切ったという。「人間の乗客は俺一人だったよ!」と豪快に笑っておられる姿は、馬が好き、ウエスタンが好きであると同時にリアルなビジネスマンの側面が非常に強く感じられた。

 だからこそ現在の九十九里でサンシャイン・ステーブルスを創業してから今年で27年、リーマンショックにも負けず、コロナ禍にも負けず営々と乗馬クラブを継続されて来られたのだろう。規模は全く違うが、私も一人の商売人としてその継続性に敬服するばかりである。

 また川島社長の哲学は「出来る限りなんでも自分でやる」であり、馬の買い付けも頻繁に現地まで飛んで自分で馬を見て決めるし、地元で役場との交渉なども人に任せずどんどん自分でされるそうである。やはり労をいとわず自分で手を動かさないと物事は前に進まないのだ。

 サンシャイン・ステーブルスも、入った瞬間にスカッと抜けの良い空間が広がっている。これは単に土地が広いだとか偶然そうなったというものではなく、川島社長の空間演出によるものと伺って得心した。入り口から建物を右手に、馬場を見せつつ奥へ誘導し、その間視界が狭苦しくなるようなものを配置しない。これは実際に行ってみると、その空間にいる気持ち良さとして実感できるだろう。

クラブハウスも良い光が来ていて気持ちが良い。

THE MAVERICK

 サンシャインステーブルス入り口すぐのレストラン、ザ・マヴェリック(THE MAVERICK)は元々撮影スタジオとして開設されたそうである。現在もサンシャイン・ステーブルスと合わせて敷地全体を撮影目的で貸し切り対象としており、国内の様々なアーティストが写真撮影やMV収録で訪れている。

 ザ・マヴェリックの名は川島社長がテキサス州フォートワースの名所、ストックヤードを訪れた際、信号待ちで停まった交差点脇にこの「MAVERICK」という言葉とともに、カウボーイの親子が描かれた壁画があり、そこから取ったそうである。

 その壁画はストックヤードのドンと呼ばれるSteve Murrin親子を描いたもので、後年川島社長はSteve Murrin本人に会い、レストランにTHE MAVERICKと名付けたことを報告すると大層喜ばれたという。

Steve Murrin御大。

 壁画はMAVERICK Fine Western WearのWEBサイトでも確認できる。実店舗と並行して通販もバリバリやっているのが現代らしい。

まとめ

 今回、お時間を頂いてあれこれ伺ったところ、ひとくちに日本のウエスタンといってもあらゆる角度からの入り方、関わり方があり、中心にカウボーイのカッコ良さがアイコン的にあるのは間違いないものの、ひとまとめにするのは至難の業と感じた。

 また現地とのリアルな関わりが強いグループと、ある種リアルでない純粋培養された憧れを持つグループをひとくくりに同じルポの中で扱うことにも疑念を抱くようになってきた。ルポの軸をどこに置くか、再考する必要性がありそうだ。

 そのきっかけとなったのは間違いなくサンシャインステーブルスにお邪魔した数時間のうちに、腹蔵なく、そして惜しみなくたくさんの貴重な情報、そしてアドバイスを頂いたおかげである。改めて川島社長に謝意を表したい。


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